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これは、私がマーケティングという仕事に本気で向き合うようになった原点のひとつ。 「レビューから売れる仕組みを設計する」現在の仕事にも、あの毛糸の市場で学んだことが生きている。 私のプロフィールを見たことある方ならご存知かもしれないけれど、私には、4年ほどの空白の時間がある。 バイト先で虐められた事をきっかけに、社会から離れ、家に引きこもっていたその4年間。履歴書では空白だけれど、私はそこでMBA(経営学修士)を学んでいた、と言っても過言ではないかもしれない。 ファイナルファンタジー11(以下FF11)というオンラインゲームをご存知だろうか。 履歴書にはない空白の4年間、私はそのFF11の世界に住んでいた。 FF11は『MMORPG』というジャンルのゲームで、仮想空間で自分のキャラクターを作り育成するゲームだ。 育成をしながら、その世界にあるストーリーを進めていき世界観を味わうゲームでもある。 ゲーム内には、オンラインを通じてキャラクターを操作しているリアルプレイヤーが沢山いた。 どこの国かわからない異国の人や、遠い他県の人、年齢も性別も職業も不詳。 もちろん声など聞いたこともない。 見知らぬ他人と、チャット文字を通じてコミュニケーションを取り、時に共に大きな敵に立ち向かったり、時にイベントに参加したりする。 ゲームとは関係のない他愛のない話をしたり、時に真面目な話をしたりと、リアルなコミュニケーションを取れることも魅力の一つと言える。 そんなゲームの中で、私は何をしていたかというと、たいして人とコミュニケーションを取るわけでもなく、ひたすらリンゴやみかん、毛糸を売る商売に明け暮れていた。 FF11の中には色んな街があった。 3つの地方都市があり、それぞれをつなぐ中心に大都会があり、人が沢山集まっていた。 私は都会に売っていないものを地方都市の店で買い、大都会に運んで売っていた。 具体的にはリンゴを地方都市で12ギルで仕入れて、都会で20ギルほどで売っていたのだ。 ※ギルは通貨 現実でたとえるなら青森で買ってきたりんごを、東京で売るような商売だ。 利益は8ギルほど。利益率(%)は66%と、数字だけ見るとめちゃくちゃ高利益率。 ただし単価が低すぎて、商売の規模感は駄菓子屋レベル。 このゲームの世界ではそんなショボい商売、誰もやらないので私の独占市場だった。 やがて、リンゴ以外も売れることに気づいた私はその他の果物なども売るようになった。 利益は同じくひとつあたり8ギル程度。 やがて売れ筋がリンゴとみかんだという事に気づき、結局リンゴばかり売るようになった。 ちなみに都会では「競売システム」を使って売っていた。 最低価格を設定して出品すると、安い順に売れていく仕組みだ。 地方で仕入れたリンゴを都会の競売に出すと、面倒が嫌いな人たちがすぐ買っていった。 毎日地方で仕入れては、都会で売る日々。 やがて気づいたら手元に300万貯まっていた。 たまった資金で私は裁縫スキルを上げることにした。 裁縫スキルというのは、敵を倒して経験値を稼ぎ上げるレベルとは違い、生活に役立つようなスキルのことで、これもキャラクター育成の一環として伸ばすことができる。 鍛冶、錬金、裁縫、調理、骨細工、革細工あと色々あったと思うけれど、私は裁縫を選んだ。 裁縫のスキル上げは、現物を作ることで上がっていく。 裁縫を教えてくれる裁縫ギルドに行き、今のスキルで作ると、スキルレベルが上がるものを教えてくれるので、それをひたすら作り続けるだけでいい。 私は早速指定のものを作るために、材料を買いにいき、レベルが上がるまで作り続けた。 レベルが上がれば新たな課題を訊き、そしてひたすら作り続ける日々。 材料などはギルドで比較的安価で売っていた。 高くても1000ギル程度で売ってはいるものの、あっという間に300万円あった私の資金はそこを尽いてしまった。1個8ギルの利益のりんごでは、いつまでたっても追いつかない。 やがて、私は「材料を自己調達しよう」と考えた。 ちょうどその頃スキル上げに作っていたものは毛糸。 毛糸の材料は羊毛で、羊毛は羊の毛皮から抽出する。羊系のモンスターを倒すと毛皮をドロップするのでそれを割いて羊毛にする。 この作業自体も革細工のスキルがいるが、素人レベルで出来るので特に問題はなかった。 そうして私は、毛糸をつくるために、その日から羊狩りに出かけるようになった。 羊は街から出た場所にすぐ居るが、個体数が少ない。 それにキャラクターそのもののレベル上げをするために、羊を狩ってる人も居るので、私が狩ってしまうと邪魔をしてしまう。 考えた私は、ほとんど誰も来ない狩場に行くことにした。 パシュハウ沼という寂れた沼地だ。 羊はだいたい5匹ぐらい集団でおり、沼地のあちこちに点在している。 FF11の世界は敵を倒すと、一定時間経てば再び同じ敵が現れる仕様なので、一日中羊を狩っても、羊が絶滅することはない。 この再び敵が湧くまでの時間(リポップ時間)がだいたい5分くらいだった。 毛皮を裂き羊毛にして、その後毛糸にしていく。 羊をある程度倒しながら繰り返し作業していると、だいたい最初に倒した羊が再び現れ始める。 ちょうどよいサイクルだ。 そんなふうに沼地で一人、周回コースを作り周り続けた。 毎日毛糸を作りまくり、私の裁縫スキルはぐんぐん上がっていく。 スキル上げの結果大量に出来た毛糸は、持っていてもウール織物にするぐらいで、使うことがあまりない。 なので、私はこれを売ることにした。 この私が売ろうとした毛糸。なぜか需要が高かった。 どうやら裁縫以外でも使うらしく、競売に出した瞬間から売れていく。 おかげで次のスキル上げに必要な材料を買う資金も出来るほどで、あっという間に私の裁縫スキルは上がっていった。 が、落とし穴があった。 裁縫スキル上げで作るべき課題で、今の私では作れないものが出てきたのだ。 複合スキルが求められたのである。 複合スキルというのは一つのスキルだけではなく、また別のスキルが必要になるスキルだ。 つまり別のスキルが育ってないと作れない。 裁縫レベルが上がるほどに、そんなものばかりになってしまったのだ。 じゃあ複合スキルの為に、必要なスキルも上げようと私は考えたが。 けれど最悪なことに、必要なスキルは彫金スキルだった。 金や銀、とにかく材料費にお金がかかるのが彫金だ。 私の毛糸をたくさん売ったとしても、必要なスキルに届くまでお金が足らなすぎる。 私は裁縫スキルを上げるのを諦めた。 やがt私は生活系のスキル上げをすることをやめた。 けれど、毛糸作りはやめなかった。 毛糸は1ダース6000ギルくらいで取引されていたので、これを新たな商売にすることにしたのだ。 私の供給速度に対しての需要の高さ。 それがとにかく魅力的だ。 競売に出品するやいなや売れていくほどの高需要。 出品手続き中の私に気がついたひとが「出品するなら買います」と、直接声をかけてくる程の人気商品だ。 さらに不思議なことに、そんな高需要商品なのに、毛糸を売ってる人が私以外に殆ど居なかった。 理由は簡単だ、毛糸づくりが面倒くさいからだ。 過疎ってるパシュハウ沼にいって、ウキウキしながら毛糸作ってる人などほぼいない。 毛糸農家になる人などいなかったのだ。 けれどこれはまさにブラックオーシャン。 労力を惜しまなければ確実に稼げる市場。 私にとってはりんごに継ぐ、新たな独占市場の発見。 しかも転売などではなく、生産から手を付けられる。 私は毛糸商売に夢中になった。 毛糸市場、めちゃくちゃ熱かったのだ。 毎日毎日、パシュハウ沼にいって羊の毛皮を剥ぎ、毛糸にする日々。 競売と沼の往復だ。 この時期市場に出回っていた毛糸のシェア率は99%私。 FF11内ジュノ市場シェア率99%。いかにすごいか判るだろう。 誰も気づいていないんだ。毛糸儲かるってことに。 そんなもんだから、毛糸を作って売るのがとにかく楽しくてしかたない。 もはや「金儲けにやっている」と言うことを私は忘れるほどで、売上が500万円を超えていても、毛糸販売をやめることは無かった。もはや毛糸生産ゲームを楽しんでいたのだ。 そんなある日。 いつものように毛糸を出品していると、売れ残りがある事に気がついた。 すぐ売り切れになるのに、在庫がある。 これこれは・・・! 需要の変化か、第三者の参入か。 私はすぐさま競売の毛糸の販売履歴を確認した。 競売は誰から誰へいつ何がいくら売れたか確認できるシステムがある。 私の名前しか無かった毛糸の販売者履歴に、見知らぬ名前が混じるようになっていた。 第三者の参入だ。 この場合、どう売っていくか考え直さないといけない。 値段を下げて売り抜くか、それとも相手の動向をみて価格をそのままにしておくか。 迷った私は履歴から販売スピードを確認することにした。 販売履歴と現在の在庫数、私の供給速度。 履歴から、新規参入者は1人だけだと判った。 出品速度があまり私と変わらなそうだった。 たった一人の参入なのに、焦って価格を下げてしまっては、向こうも対向してくるかもしれない。 そうなると、毛糸自体の価格が崩壊し始める可能性だってある。私は消耗戦は望んでいない。 それに向こうは私の出品価格に合わせて出品しているようだったから、価格のフォロワーでもある。 おかげで毛糸自体の値崩れは起きていないので、私的に「こいつは良い毛糸屋だ」と判断した。 それらのデータを元に、私は値下げをせず、そのまま売り続けることを選んだ。 価格を下げて売り抜くよりも、多少の鈍化なら我慢しようと思ったのだ。 出せばすぐ売れていく状態ではなくなったけれど、相変わらず毛糸は売れていく。 しかもライバルの毛糸屋が登場したおかげで、私が一人で支えていた毛糸市場において、欠品時間が大幅に改善されたのだ。 私は妙に仲間意識が芽生え、毛糸の出品数を確認しては「お、がんばってるな。じゃあ私生産いってくるか」と思うようになった。 そのうち競売で名前しか見かけたこと無かった彼に、たまに沼で会うことも増えて行くようになっていった。 言葉を交わすことは無いけれど、会えばお辞儀をし合う仲。 私の読みは正しかった。 とても礼儀正しく接してくれる彼のおかげで、心地よく働くことができる。 お互いに狩場が被らないように、少し狩場の拠点をずらし合ったり、帰るときには姿を探して手を振ったり。 競売にいけば彼は今出品しているのかを確認したり。 いつの間にか無言のうちに、毛糸市場を守っていた我々は、いわば毛糸カルテルを結成していた。 ただ、そんな毛糸カルテルを楽しむ日々は長続きしなかった。 ある日を境に毛糸が全く売れなくなってしまったのだ。 毛糸市場の需要は相変わらずあるにも関わらず、これまで通りの価格で出品しても売れない。 それでも我慢して出品を続けていたが、やがて大量の毛糸が競売から返品されて返ってくるようにもなってしまった。 最悪だ。 我々の平和な毛糸カルテルを破壊する、最悪の毛糸屋の登場。 新たな第三者の参入だ。 まずそいつは価格など守らない。 競売の履歴を確認すると、私や良い毛糸屋の彼の名前は古い履歴に追いやられ、最悪の毛糸屋の名前で埋め尽くされていた。 我々が守っていた伝統的な価格6000ギルより、遥かに安い価格4800ギル。 その金額で大量に売りさばかれている。 しかも供給スピードが、我々毛糸カルテルでは太刀打ちできない異常な速度だ。 なぜ早いのか なぜ1000ギル以上安いのか 全くわからないが、そんなことはどうでもいい。 私と毛糸カルテルの彼の毛糸は全く売れなくなってしまった。 価格が4800ギルで安定してしまっていたのだ。 私と同様に在庫を抱えた良い毛糸屋の彼は、これに値下げで対応した。 焦りからだろう値下げ競争に挑んでしまったのだ。 最悪の毛糸屋はそれに対向してきた。 ついに恐れていた価格の崩壊が起こってしまった。 あっという間に毛糸は3200ギルまで暴落した。 このまま行けば3000ギル以下になる日も近いし、やがで2000ギル台になる日も遠くない。 さらにこの新規参入者、我々が、守ってきた狩場でのマナーなどお構いなしだった。 沼で会えば凄まじい速度で敵を殲滅し、羊すら狩ることすら出来ない。 勿論お辞儀をすることなど無ければ、手を振ることもない。 やがて沼で良い毛糸屋の彼を見かける日もなくなった。 あの楽しかった日々は遠い彼方へ消えてしまった。 私は仕方なく毛糸市場から撤退することにした。 楽しかった毛糸カルテルも終わりを迎えたのだ。 あの新たな参入者は不正なツールをつかったbotか、現実の世界でギル販売を目的とした業者か、何かはわからない。
いずれにせよ私では太刀打ち出来るような供給スピードの速さではないし、狩りの速度だったのは事実。 明らかに怪しいものがあったが、それを指摘したとて一度下がった市場価格はそうそう戻ることはない。 買う側からすれば安いに越したことなど無いし、ゲームの世界だから毛糸の品質に差などもない。 私はあっという間にFF11が面白くなくなってしまった。 あのリアルな経済を感じてるかのような毛糸の日々。 それが楽しかったんだ。 それから暫くして紆余曲折あり、私は引きこもりから社会へと復帰した。 環七のそばにあったリユース書店で働き始め、店が出来たオープン当初から誰も成ることが出来なかった、店舗リーダーまで登りつめた。 4年間の引きこもりから立ち上がり頑張れたのは、もしかしたらFF11での経済活動が支えになってたのかもしれない。 それから何年も経ち、今はマーケターとしてコンサル業を一人でするようになって、再びあの日々を思い出す。 これは、私のマーケターとしての原点の一つと言える。 市場の開拓、価格の維持、新規参入者の介入、価格の崩落。 カルテルが良いと言いたいわけではないけれど、焦りから値段を下げた時、結果的には自分の首を絞めることになる。 市場を守るということは、自分の価値を守ることでもある。 品質に差がない世界では価格競争しか残らない。 だからこそ、現実の世界では価格以外の価値を武器にするべきだと、私は信じている。 これはゲームの中の話だけど、実は現実のビジネスでも、よくある構図でもある。 貴方は何を武器に売ってるだろうか。
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